渋谷区は、渋谷駅・原宿・表参道・代官山など、国内外から注目を集める人気エリアを擁し、観光客やビジネス客の宿泊需要が非常に高い地域です。そのため、民泊事業に魅力を感じる不動産投資家も多いでしょう。
しかし、渋谷区は東京23区の中でも民泊規制が非常に厳しい地域の一つとして知られています。住居専用地域や文教地区では、年間わずか84日間しか営業できないという上乗せ条例があり、「需要は高いが規制が厳しい」というジレンマを抱えています。
本記事では、渋谷区で民泊を開業・運営する際の上乗せ条例の詳細、届出手続き、収支シミュレーション、そして採算が取れない場合の撤退判断基準まで、実用的な情報を網羅的に解説します。
※本記事は2025年1月時点の情報に基づいています。
渋谷区の民泊とは?人気エリアだが規制が厳しい現状
渋谷区は、若者文化の発信地として国内外から注目を集め、年間を通じて多くの観光客・ビジネス客が訪れるエリアです。しかし、その人気とは裏腹に、民泊事業者にとっては厳しい規制環境となっています。
渋谷区の民泊市場データ(届出件数・宿泊需要・平均単価)
渋谷区の民泊届出件数と市場規模
渋谷区における住宅宿泊事業(民泊)の届出件数は、約519件(2024年時点の推定)とされています。東京23区全体で見ると中程度の規模ですが、渋谷という立地の良さを考えると、規制の厳しさが参入障壁となっていることがわかります。
渋谷エリアの宿泊需要の特徴
渋谷区は以下のような特徴から、宿泊需要が非常に高いエリアです。
- 観光スポットが集中: 渋谷駅周辺、原宿・表参道、代官山、恵比寿など
- 交通アクセスの良さ: JR山手線、東京メトロ、私鉄各線が乗り入れ
- 外国人観光客に人気: 渋谷スクランブル交差点、竹下通り、明治神宮など
- ビジネス客の需要: 渋谷駅周辺のオフィス街、イベント施設(渋谷ヒカリエ、Bunkamuraなど)
平均宿泊単価と稼働率
複数の民泊運営事例に基づく目安として、渋谷区の民泊の平均宿泊単価は1泊8,000〜15,000円(物件タイプ・立地により変動)程度とされています。
ただし、稼働率は営業日数制限の影響を大きく受けます。
- 制限区域(年間84日営業): 稼働率70%でも年間約59日しか稼働できない
- 非制限区域(年間180日営業): 稼働率70%で年間約126日稼働可能
※実際の収益は物件状態・運営方法により変動します。
需要は高いが規制がネック
渋谷区は、ホテルや民泊施設の数が需要に対して不足している状況であり、宿泊需要のポテンシャルは非常に高いといえます。しかし、後述する上乗せ条例により、住居専用地域や文教地区では年間84日間しか営業できないため、「需要は高いが採算が取れない」という厳しい現実があります。
東京都内の民泊規制全般については、東京 民泊 規制の記事で詳しく解説していますので、併せてご確認ください。
渋谷区の民泊規制が厳しい理由(上乗せ条例の背景)
住宅宿泊事業法(民泊新法)の基本ルール
2018年6月に施行された住宅宿泊事業法(民泊新法)では、住宅を利用した民泊事業について、年間180日以内の営業という全国共通のルールが定められています。
(出典:国土交通省「民泊制度ポータルサイト」)
渋谷区独自の上乗せ条例
しかし、渋谷区は住宅宿泊事業法に加えて、独自の上乗せ条例を制定しています。
「渋谷区住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例」により、住居専用地域および文教地区では、年間約84日間のみ営業可能という厳しい制限が設けられています。
(出典:渋谷区「住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例」(PDF))
上乗せ条例が制定された背景
渋谷区が厳格な上乗せ条例を制定した背景には、以下のような理由があります。
- 住環境保護の観点: 住居専用地域や文教地区は、静穏な住環境を維持すべき地域とされている
- 近隣住民からの苦情・トラブル増加: 騒音、ゴミ出し、不特定多数の出入りによる防犯上の不安
- 学校施設への配慮: 文教地区には学校が多く、児童・生徒の安全確保が優先される
渋谷区は「区民の生活環境の保全」を最優先とし、民泊事業と住環境の調和を図るため、厳しい規制を設けています。
東京23区の中でも厳しい部類
東京23区の中でも、渋谷区の上乗せ条例は豊島区と同レベルで厳しいとされています。豊島区も2026年に営業日数を120日に短縮する条例改正を予定しており、渋谷区も今後さらに規制が強化される可能性があります。
渋谷区の民泊上乗せ条例|制限区域・制限期間・特例措置を詳細解説
渋谷区の民泊規制を理解するには、「制限区域」「制限期間」「特例措置」の3つのポイントを押さえる必要があります。ここでは、渋谷区条例の具体的な内容を詳しく解説します。
制限区域と制限期間(住居専用地域・文教地区は年間約84日のみ)
制限区域とは?
渋谷区の上乗せ条例では、以下の地域が「制限区域」として指定されています。
- 第一種低層住居専用地域
- 第二種低層住居専用地域
- 第一種中高層住居専用地域
- 第二種中高層住居専用地域
- 文教地区
これらの地域では、民泊営業が可能な期間が大幅に制限されます。
制限期間(民泊営業不可の期間)
制限区域に該当する物件では、以下の期間は民泊営業ができません。
| 制限期間(営業不可) | 期間の長さ |
|---|---|
| 4月5日〜7月20日 | 約107日間 |
| 8月29日〜10月の第2月曜日の前の週の水曜日 | 約40日間 |
| 10月の第2月曜日の前の週の土曜日〜12月25日 | 約75日間 |
| 1月7日〜3月25日 | 約78日間 |
(出典:渋谷区「住宅宿泊事業(民泊)について」)
営業可能期間は年間約84日間のみ
上記の制限期間を除いた営業可能期間は、以下の通りです。
- 7月21日〜8月28日(夏休み期間)
- 12月26日〜1月6日(年末年始)
- 3月26日〜4月4日(春休み期間)
- 10月の第2月曜日の前の週の木曜日〜土曜日(秋の連休)
合計すると、年間約84日間しか営業できません。
非制限区域では年間180日営業可能
一方、商業地域、近隣商業地域、工業地域などの非制限区域では、住宅宿泊事業法の上限である年間180日間の営業が可能です。
渋谷駅周辺や繁華街の物件が非制限区域に該当するケースが多いですが、物件の用途地域は事前に確認が必要です。
渋谷区の民泊規制の詳細については、渋谷区 民泊 規制の記事でさらに詳しく解説しています。
特例措置で180日営業が可能になるケース(半径100m以内の条件)
制限区域であっても、特定の条件を満たせば年間180日営業が可能という特例措置が設けられています。この特例措置を知らない事業者も多いため、詳しく解説します。
特例措置の条件
渋谷区条例では、以下のいずれかの条件を満たす場合、制限区域であっても制限期間にかかわらず年間180日営業が可能とされています。
条件1: 届出住宅の敷地から半径100m以内に「自己の生活の本拠として使用する住宅」がある
つまり、民泊事業者の自宅が届出住宅から半径100m以内にある場合、家主居住型に近い状態とみなされ、制限が緩和されます。
条件2: 届出住宅の敷地から半径100m以内に「住宅宿泊管理業者の営業所または事務所」がある
住宅宿泊管理業者(民泊の運営管理を代行する業者)の営業所が半径100m以内にある場合、迅速な対応が可能と判断され、制限が緩和されます。
(出典:渋谷区「民泊のてびき」(PDF))
特例措置を活用する2つの方法
この特例措置を活用するには、以下の2つの方法があります。
方法1: 自宅から半径100m以内の物件で民泊を運営する
自分が住んでいる自宅の近隣(半径100m以内)に民泊物件を取得・賃借し、民泊事業を行う方法です。この場合、何か問題が発生した際に迅速に駆けつけることができるため、特例措置が適用されます。
方法2: 半径100m以内に営業所を持つ住宅宿泊管理業者に管理を委託する
より現実的な方法として、届出住宅から半径100m以内に営業所を持つ住宅宿泊管理業者に管理を委託するという選択肢があります。
この方法であれば、自分が遠方に住んでいても、制限区域での180日営業が可能になります。
駆けつけ要件との関係
渋谷区では、民泊事業者または管理業者が「適切かつ迅速に」苦情対応や緊急時対応を行うことが求められています(駆けつけ要件)。
半径100m以内に自宅または営業所があることで、この駆けつけ要件を満たしやすくなり、結果として特例措置の適用を受けられるという仕組みです。
特例措置活用のメリット
- 制限区域(年間84日)でも180日営業が可能になる
- 年間営業日数が2倍以上になることで、収益性が大幅に改善
- 管理業者への委託により、自分で駆けつける必要がない
この特例措置を活用できるかどうかが、渋谷区での民泊事業の成否を分ける大きなポイントとなります。
渋谷区での民泊届出手続きと必要書類
渋谷区で民泊事業を開始するには、国土交通省の「民泊制度運営システム」を通じて届出を行う必要があります。
届出先
- 国土交通省「民泊制度運営システム」(オンライン届出)
(参考:国土交通省「民泊制度ポータルサイト」)
必要書類
渋谷区で民泊届出を行う際に必要な主な書類は以下の通りです。
- 住宅の登記事項証明書(法務局で取得)
- 住宅の図面(各室の用途、間取り、設備の位置を記載)
- 誓約書(暴力団員でないこと等)
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証等)
- 賃貸物件の場合: 転貸承諾書(大家の同意書)
- 管理業者に委託する場合: 管理受託契約書
- 特例措置を利用する場合: 自宅または管理業者営業所の位置を示す書類
賃貸物件の場合は大家の同意が必須
賃貸物件で民泊を行う場合、必ず大家(賃貸人)の書面による同意が必要です。同意が得られない場合、届出は受理されません。
届出から営業開始までの流れ
- 届出書類の準備: 上記の必要書類を揃える
- オンライン届出: 民泊制度運営システムで届出
- 届出受理: 渋谷区が届出内容を審査
- 届出番号の通知: 受理されると届出番号が発行される
- 標識の掲示: 届出住宅の見やすい場所に標識を掲示
- 営業開始: 届出番号取得後、営業可能
渋谷区独自の条件
- 駆けつけ要件: 半径100m以内に自宅または管理業者営業所があることが推奨される(特例措置を受ける場合は必須)
- 定期報告義務: 2ヶ月ごとに営業日数等を渋谷区に報告する義務がある
届出手続きは複雑なため、不安な場合は行政書士や住宅宿泊管理業者に相談することをおすすめします。
渋谷区の民泊は採算が取れる?収支シミュレーションで検証
渋谷区で民泊事業を行う場合、最も重要なのは「採算が取れるか」という点です。ここでは、制限区域(年間84日営業)と非制限区域(年間180日営業)の収支シミュレーションを行い、損益分岐点を明らかにします。
制限区域(年間84日営業)での収支シミュレーション
まず、制限区域で年間84日間のみ営業する場合の収支をシミュレーションします。
前提条件
- 物件タイプ: 1LDK(40㎡)
- 家賃: 15万円/月
- 管理費・光熱費: 2万円/月
- 清掃費: 1回5,000円(宿泊ごと)
- 宿泊単価: 10,000円/泊
- 稼働率: 70%(84日中58.8日稼働)
年間収入
- 営業可能日数: 84日
- 実際の稼働日数: 84日 × 70% = 58.8日
- 年間収入: 10,000円 × 58.8日 = 588,000円
年間支出
- 固定費(家賃・管理費・光熱費): 17万円 × 12ヶ月 = 204万円
- 変動費(清掃費等): 5,000円 × 58.8日 = 29.4万円
- 合計支出: 233.4万円
損益
- 年間損益: 58.8万円 – 233.4万円 = ▲174.6万円(赤字)
損益分岐点
年間84日営業で黒字化するには、以下の宿泊単価が必要です。
- 必要な年間収入: 233.4万円
- 必要な宿泊単価: 233.4万円 ÷ 58.8日 = 約39,700円/泊
結論: 制限区域では採算が取れない
年間84日しか営業できない制限区域では、宿泊単価を4万円近くに設定しないと黒字化できません。渋谷区の一般的な民泊の宿泊単価(8,000〜15,000円)を考えると、現実的には採算が取れないといえます。
※複数の民泊運営事例に基づく目安。実際の収益は物件状態・運営方法により変動します。
渋谷区の民泊の採算性については、渋谷区 民泊 採算の記事でさらに詳しく解説しています。
非制限区域(年間180日営業)または特例措置活用時の収支シミュレーション
次に、非制限区域または特例措置を活用して年間180日営業する場合の収支をシミュレーションします。
前提条件
- 物件タイプ: 1LDK(40㎡)
- 家賃: 15万円/月
- 管理費・光熱費: 2万円/月
- 清掃費: 1回5,000円(宿泊ごと)
- 宿泊単価: 10,000円/泊
- 稼働率: 70%(180日中126日稼働)
年間収入
- 営業可能日数: 180日
- 実際の稼働日数: 180日 × 70% = 126日
- 年間収入: 10,000円 × 126日 = 126万円
年間支出
- 固定費(家賃・管理費・光熱費): 204万円
- 変動費(清掃費等): 5,000円 × 126日 = 63万円
- 合計支出: 267万円
損益
- 年間損益: 126万円 – 267万円 = ▲141万円(赤字)
損益分岐点
年間180日営業で黒字化するには、以下の宿泊単価が必要です。
- 必要な年間収入: 267万円
- 必要な宿泊単価: 267万円 ÷ 126日 = 約21,200円/泊
ただし、宿泊単価を16,500円/泊程度に設定できれば、赤字幅を大幅に縮小できます。
結論: 特例措置活用で黒字化の可能性あり
年間180日営業できる場合、宿泊単価を16,500〜21,200円程度に設定することで、黒字化または赤字幅の大幅縮小が可能です。渋谷という立地の良さを活かし、外国人観光客や富裕層をターゲットにすることで、この単価は十分に達成可能といえます。
※複数の民泊運営事例に基づく目安。実際の収益は物件状態・運営方法により変動します。
制限区域の84日 vs 非制限区域の180日
| 項目 | 制限区域(84日) | 非制限区域(180日) |
|---|---|---|
| 稼働日数 | 58.8日 | 126日 |
| 年間収入 | 58.8万円 | 126万円 |
| 損益分岐点(宿泊単価) | 約39,700円/泊 | 約21,200円/泊 |
このように、営業日数が2倍以上になることで、損益分岐点が大幅に下がり、採算性が大きく改善します。
渋谷区で民泊を黒字化するための3つの方法
渋谷区の厳しい規制環境の中で民泊を黒字化するには、以下の3つの方法が考えられます。
方法1: 特例措置を活用して180日営業を実現
最も重要なのは、半径100m以内に営業所を持つ住宅宿泊管理業者に管理を委託することで、制限区域でも180日営業を可能にすることです。
- 営業日数が84日→180日に増加
- 損益分岐点が大幅に下がる
- 管理業者が駆けつけ対応を行うため、自分で対応する必要がない
方法2: 高単価化戦略
渋谷という立地の良さを最大限に活かし、宿泊単価を高く設定する戦略です。
- ターゲット: 富裕層、外国人観光客、ビジネス客
- 差別化: 内装・設備を高級化(デザイナーズ家具、高速Wi-Fi、スマートロック等)
- マーケティング: Airbnb・Booking.comで高評価を獲得し、プレミアム価格を設定
- 目標単価: 15,000〜25,000円/泊
原宿・表参道エリアや代官山エリアなど、高級感のある立地であれば、この単価帯も十分に実現可能です。
方法3: 複数物件の同時運営
1物件のみの運営では固定費(家賃・管理費)が重くなりますが、複数物件を同時運営することで、スケールメリットを出すことができます。
- 管理業者への委託費用を一括交渉で削減
- 清掃業者との契約を複数物件でまとめて単価削減
- 運営ノウハウの横展開で稼働率向上
ただし、複数物件を運営するには、資金力と運営ノウハウが必要になります。
黒字化が難しい場合は撤退も選択肢
これらの方法を試してもなお採算が取れない場合は、早期撤退も現実的な選択肢となります。次の章では、民泊を続けるべきか撤退すべきかの判断基準を解説します。
渋谷区の民泊を続けるべきか?撤退判断の基準
渋谷区の厳しい規制環境と採算性を考えると、「民泊を続けるべきか、撤退すべきか」という判断を迫られる事業者も多いでしょう。ここでは、継続・撤退の判断基準を明確に提示します。
民泊継続 vs 撤退の判断フローチャート
以下の判断基準をもとに、ご自身の状況と照らし合わせて検討してください。
【継続を検討すべきケース】
以下のいずれかに該当する場合は、民泊事業の継続を検討する価値があります。
✅ 特例措置を活用して180日営業が可能
- 半径100m以内に自宅または管理業者営業所がある
- 制限区域でも180日営業できるため、採算改善の可能性が高い
✅ 宿泊単価15,000円以上を安定的に取れる立地・物件
- 原宿・表参道、代官山など高級エリアの物件
- 内装・設備が充実しており、高単価設定が可能
✅ 複数物件を運営してスケールメリットを出せる
- 固定費を複数物件で分散できる
- 運営ノウハウを横展開できる
✅ 今後の規制強化リスクを許容できる
- 豊島区のような営業日数短縮の可能性があっても事業を継続する覚悟がある
- 資金的余裕があり、赤字リスクを許容できる
【撤退を検討すべきケース】
以下の複数に該当する場合は、早期撤退を検討すべきです。
❌ 制限区域で84日しか営業できず、赤字が続いている
- 年間170万円以上の赤字が継続している
- 改善の見込みが立たない
❌ 特例措置の活用が難しい
- 半径100m以内に自宅がなく、管理業者も見つからない
- 特例措置を活用しても採算改善が見込めない
❌ 宿泊単価を上げられず、損益分岐点に達しない
- 立地や物件のグレードの問題で、高単価設定が困難
- 競合が多く、価格競争に巻き込まれている
❌ 資金繰りが厳しく、赤字を継続する余裕がない
- 自己資金が枯渇しつつある
- 他の収入源で赤字を補填できない
❌ 今後の規制強化を懸念している
- 豊島区のように営業日数がさらに短縮される可能性を懸念
- 規制リスクを抱えながら事業を続けるストレスに耐えられない
判断のポイント
- 「撤退を検討すべきケース」に3つ以上該当する場合は、早期撤退を真剣に検討すべきタイミングです
- 赤字が続く状態で無理に継続すると、資金が枯渇し、最終的に選択肢がなくなる可能性があります
渋谷区の民泊を売却・買取してもらう際の相場と方法
撤退を決断した場合、次に考えるべきは「どのように撤退するか」です。ここでは、民泊物件の売却・買取について解説します。
売却・買取の相場
民泊物件の売却価格は、通常の不動産売却と同様に、立地、築年数、物件状態によって決まります。渋谷区という立地の良さから、一定の需要は見込めますが、以下の点に注意が必要です。
民泊物件の売却の難しさ
民泊物件は、以下の理由から通常の居住用物件よりも売却が難しいケースがあります。
- 規制の厳しさ: 次の買い手も同じ規制を受けるため、投資対象として魅力が低い
- 原状回復の必要性: 民泊仕様(スマートロック、業務用Wi-Fi等)から居住用に戻す必要がある
- 賃貸物件の場合: 大家との契約解除や原状回復義務が発生
買取サービスのメリット
民泊物件に特化した買取業者を利用することで、以下のメリットがあります。
- 現況渡しOK: 原状回復工事を行わずに、現在の状態のまま買い取ってもらえる
- 最短3営業日で成約: 通常の不動産売却(3〜6ヶ月)よりも圧倒的に早い
- 原状回復費用ゼロ: 数十万〜100万円以上かかる原状回復費用を負担する必要がない
- 撤退手続きのサポート: 住宅宿泊事業の廃止届等の手続きをサポートしてもらえる
- 複数物件の一括買取: 1Rから5棟一括まで対応可能
現況渡しのメリット
民泊撤退時に最も負担となるのが、原状回復費用です。賃貸物件の場合、以下のような費用が発生します。
- クロス張替え: 30〜80万円
- 床補修: 20〜50万円
- 設備撤去・原状回復: 10〜30万円
- 合計: 60〜160万円程度
現況渡しで買い取ってもらえれば、これらの費用をすべて回避できます。
撤退を検討している方へ
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渋谷区の民泊売却や撤退手続きの詳細については、渋谷区 民泊 売却および渋谷区 民泊 撤退の記事でさらに詳しく解説しています。
旅館業(簡易宿所)への転換で通年営業する選択肢
民泊の営業日数制限を回避する方法として、旅館業(簡易宿所)への転換という選択肢もあります。
旅館業(簡易宿所)とは
旅館業法に基づく許可を取得することで、通年営業が可能(180日制限なし)になります。民泊新法の上乗せ条例も適用されないため、渋谷区の制限区域でも年間365日営業できます。
旅館業の許可要件
旅館業の許可を取得するには、以下の要件を満たす必要があります。
- 建築基準法: 用途地域での旅館業の許可(住居専用地域では原則不可)
- 消防法: 消防設備の設置(消火器、誘導灯、自動火災報知設備等)
- 保健所の許可: 衛生基準を満たす設備(洗面設備、換気設備等)
- その他: フロント設置(緩和措置あり)、宿泊者名簿の作成等
旅館業のメリット
- 通年営業可能: 180日制限がなく、年間365日営業できる
- 収益性の大幅向上: 営業日数が2倍以上になることで、採算が大きく改善
旅館業のデメリット
- 初期投資が高額: 消防設備の設置等で数百万円かかることもある
- 許可取得まで数ヶ月: 保健所との協議、消防署との協議等で時間がかかる
- 住居専用地域では許可が困難: 渋谷区の制限区域(住居専用地域)では原則として旅館業の許可が下りない
検討すべきケース
旅館業への転換を検討すべきケースは、以下の通りです。
- 物件が商業地域・近隣商業地域にあり、旅館業の許可要件を満たせる
- 初期投資(数百万円)を負担できる資金力がある
- 長期的に民泊事業を継続する強い意思がある
現実的な判断
ただし、旅館業への転換は初期投資と手間が大きいため、「赤字が続いて撤退を検討している」という状況では、現実的な選択肢とは言えません。
むしろ、現況渡しでの買取・撤退の方が、費用と時間の負担が少なく、現実的な選択肢といえます。
まとめ|渋谷区の民泊は特例措置の活用がカギ、厳しい場合は撤退も選択肢
渋谷区の民泊事業は、需要が高い一方で規制が非常に厳しく、採算性の確保が難しい環境です。本記事の内容を踏まえ、以下の5つのポイントを押さえましょう。
渋谷区の民泊で押さえるべき5つのポイント
1. 上乗せ条例により、住居専用地域・文教地区では年間約84日間しか営業できない
渋谷区の上乗せ条例では、制限区域(住居専用地域・文教地区)での営業は年間約84日間に制限されています。この制限下では、通常の宿泊単価では採算が取れません。
2. 半径100m以内に自宅または管理業者営業所がある場合、特例措置で180日営業可能
ただし、届出住宅から半径100m以内に自宅または住宅宿泊管理業者の営業所がある場合、特例措置により制限区域でも180日営業が可能です。この特例措置を活用できるかどうかが、採算性を大きく左右します。
3. 制限区域(年間84日)では採算が取れず赤字になりやすい
年間84日しか営業できない場合、損益分岐点は宿泊単価約4万円/泊となり、現実的には黒字化が困難です。多くの事業者が赤字に苦しんでいます。
4. 非制限区域または特例措置を活用すれば、宿泊単価を工夫することで黒字化の可能性あり
一方、非制限区域または特例措置を活用して180日営業できる場合、宿泊単価を16,500〜21,200円程度に設定することで黒字化または採算改善が可能です。渋谷という立地の良さを活かし、高単価戦略を取ることが重要です。
5. 採算が取れない場合は、現況渡し買取サービスでの早期撤退も選択肢
特例措置を活用できず、赤字が続いている場合は、早期撤退も現実的な選択肢です。民泊物件に特化した買取サービスを利用することで、原状回復費用ゼロ・最短3営業日で撤退が可能です。
最終的な判断は慎重に
渋谷区で民泊事業を継続するか撤退するかは、ご自身の資金力、物件の立地、特例措置の活用可否、今後の規制強化リスクへの許容度などを総合的に判断する必要があります。
赤字が続く状態で無理に継続すると、資金が枯渇し、最終的に選択肢がなくなる可能性があります。早めの判断が重要です。
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参考資料
本記事は、以下の公的機関および信頼できる情報源に基づいて作成しています。
- 渋谷区「住宅宿泊事業(民泊)について」
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kenko/eisei/kankyo/minpaku.html - 渋谷区「住宅宿泊事業の適正な運営に関する条例」(PDF)
https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/06fb828cf4f8422aa65c586af0b6c40e/assets_com_000047399.pdf - 渋谷区「民泊のてびき」(PDF)
https://files.city.shibuya.tokyo.jp/assets/12995aba8b194961be709ba879857f70/5e74b5f0c7b744499d375ff226b5ac52/minpaku_tebiki.pdf - 国土交通省「民泊制度ポータルサイト」
https://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/ - 住宅宿泊事業法(e-Gov法令検索)
https://laws.e-gov.go.jp/law/429AC0000000065
※本記事は2025年1月時点の情報に基づいています。法令や制度の変更により内容が変わる可能性がありますので、最新情報は渋谷区公式サイトおよび国土交通省の民泊制度ポータルサイトでご確認ください。
