民泊事業からの撤退を検討する際、多くの事業者が直面するのが「原状回復費用」の問題です。賃貸物件で民泊を運営していた場合、退去時に大家や管理会社から50万円、100万円といった高額な原状回復費用を請求されるケースも少なくありません。
しかし、その請求額は本当に妥当なのでしょうか?民泊における原状回復は、通常の賃貸住宅とは異なる特殊な扱いを受けることがあり、法的な基準や費用相場を正しく理解しておくことが重要です。
本記事では、民泊撤退時の原状回復義務の範囲、工事項目別の費用相場、原状回復費用を抑える方法まで、国土交通省のガイドラインや法令に基づいて徹底解説します。
※本記事は2025年1月時点の情報に基づいています。
民泊における原状回復義務とは?一般賃貸との違い
原状回復の法的定義と民泊の特殊性
原状回復とは、賃貸借契約終了時に借主が物件を「入居時の状態」に戻す義務のことです。 2020年4月1日施行の改正民法第621条により、この義務が明文化されました。
民法第621条の要点:
- 借主は賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷を原状に復する義務を負う
- ただし、通常の使用及び収益によって生じた損耗(経年劣化・通常損耗)や経年変化については原状回復義務を負わない
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(再改訂版:平成23年8月)では、原状回復を次のように定義しています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
参考: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
民泊と一般賃貸の原状回復における3つの違い
| 比較項目 | 一般賃貸 | 民泊 |
|---|---|---|
| 使用頻度 | 1世帯が継続使用 | 不特定多数が短期利用 |
| 損耗の程度 | 通常の生活による損耗 | 通常の使用を超える損耗が発生しやすい |
| 原状回復の範囲 | 経年劣化は貸主負担が原則 | 「通常の使用を超える損耗」の判断が厳しい傾向 |
民泊特有のリスク要因:
- 不特定多数のゲストの出入りによる損耗の加速
- 清掃頻度が高いことによる水回り設備の劣化
- 異なる使用習慣による予期せぬ損傷
- 近隣トラブルに起因する追加費用
このため、民泊運営では「通常の使用」の範囲が一般賃貸より狭く解釈され、借主負担となる原状回復費用が高額になる傾向があります。
借主負担と貸主負担の明確な区分
国土交通省ガイドラインに基づく負担区分は以下の通りです。
借主(民泊事業者)が負担すべき項目:
- 故意・過失による損傷(壁の穴、床の傷など)
- 通常の清掃を怠ったことによる汚れ・カビ
- タバコのヤニ・臭い
- ペットによる損傷・臭い(ペット可物件を除く)
- 民泊運営による過度な損耗(頻繁な出入りによる建具の緩み、鍵の劣化など)
貸主(オーナー)が負担すべき項目:
- 経年劣化(日焼けによる壁紙の変色、畳の自然な劣化など)
- 通常の使用による損耗(家具設置跡の床のへこみ、画鋲・ピンの穴など)
- 次の入居者確保のためのグレードアップ費用
- 設備の耐用年数を超えた交換費用
原状回復費用の相場と内訳|工事項目別の詳細解説
民泊の原状回復費用は、物件の状態や運営期間により大きく変動しますが、一般的な相場と内訳を理解しておくことで、請求額の妥当性を判断できます。
【重要】本セクションの費用相場について:
以下の数値は、当社(StayExit)の取引実績および不動産業界の一般的な相場に基づく推計値です。民泊原状回復費用に関する公的統計は存在せず、実際の費用は物件の状態、契約内容、地域、運営期間により大きく異なります。正確な見積もりは、複数の専門業者にご相談されることをおすすめします。
主要工事項目別の費用相場と耐用年数
1. クロス(壁紙)張替え
費用相場:
- 量産品: 800〜1,500円/㎡
- 標準品(1000番台): 1,500〜2,500円/㎡
- 機能性クロス(防汚・消臭): 2,000〜3,000円/㎡
耐用年数: 6年(国土交通省ガイドラインによる経過年数考慮の基準)
費用に含まれるもの:
- 材料費
- 施工費
- 養生費
- 既存クロスの剥離・処分費
参考: 国土交通省ガイドラインでは、クロスの耐用年数6年を経過すると残存価値は1円とされ、借主の負担割合は大幅に減少します。ただし、タバコのヤニや故意の損傷など「通常の使用を超える損耗」は経過年数に関わらず借主負担となります。
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
2. フローリング・床材の補修
費用相場:
- 部分補修(傷・へこみ): 10,000〜30,000円/箇所
- 重ね張り: 3,000〜6,000円/㎡
- 張替え: 4,000〜10,000円/㎡
一般的な耐用年数: 10〜15年程度(実務上の目安。国土交通省ガイドラインには明確な基準はなく、使用状況により判断されます)
費用に含まれるもの:
- 材料費(フローリング材、接着剤)
- 施工費
- 既存床材の撤去・処分費
- 幅木の交換費用
注意点: 部分的な損傷でも、同じ色・材質のフローリングが廃番の場合、広範囲の張替えが必要になることがあります。
3. 畳の表替え・交換
費用相場:
- 表替え: 4,000〜8,000円/畳
- 新調: 8,000〜15,000円/畳
耐用年数: 表替え3〜5年、畳全体6〜8年程度
4. 水回りクリーニング・修繕
キッチン:
- 特殊清掃: 15,000〜30,000円
- 換気扇分解洗浄: 8,000〜15,000円
浴室:
- 特殊清掃: 15,000〜35,000円
- カビ除去・コーティング: 10,000〜20,000円
トイレ:
- 特殊清掃: 8,000〜15,000円
- 便座交換: 10,000〜30,000円
5. エアコン清掃・交換
費用相場:
- 分解洗浄: 8,000〜15,000円/台
- 交換(標準タイプ): 50,000〜100,000円/台
耐用年数: 6年(国土交通省ガイドラインによる経過年数考慮の基準)
注意点: 国土交通省ガイドラインでは6年が基準ですが、メーカーの設計上の標準使用期間は10年程度です。実務上は、故障の原因や使用状況により負担割合が判断されます。
出典: 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
6. 建具・ドアの補修
費用相場:
- 傷・凹み補修: 5,000〜15,000円/箇所
- ドア交換: 30,000〜100,000円/枚
- 襖・障子の張替え: 3,000〜8,000円/枚
7. ハウスクリーニング
費用相場:
- 1R・1K: 30,000〜50,000円
- 1LDK: 50,000〜80,000円
- 2LDK: 70,000〜130,000円
注意: 東京都心部などの大都市圏では相場が高め、地方都市では低めの傾向があります。
物件タイプ別の総額シミュレーション
以下の表は、民泊運営2〜3年後の一般的な原状回復費用の目安です。
| 物件タイプ | クロス | 床 | 水回り | 設備 | クリーニング | 合計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1R・1K | 10〜25万円 | 5〜15万円 | 5〜10万円 | 3〜10万円 | 3〜5万円 | 30〜70万円 |
| 1LDK | 15〜35万円 | 10〜25万円 | 8〜15万円 | 5〜12万円 | 5〜8万円 | 50〜95万円 |
| 2LDK | 25〜50万円 | 15〜35万円 | 10〜20万円 | 8〜15万円 | 7〜13万円 | 70〜130万円 |
【重要】本表の数値について:
この表の数値は、当社の取引実績および不動産業界の一般的な相場をもとにした推計値です。実際の費用は以下の要因により大きく異なります:
- 物件の築年数と入居時の状態
- 民泊運営期間と稼働率
- 損耗の程度とメンテナンス状況
- 地域(都心部か地方か)
- 契約書の特約内容
- 業者の価格設定
あくまで目安としてご参照ください。正確な見積もりは、必ず複数の専門業者にご依頼ください。
原状回復費用を抑える5つの実践方法
高額になりがちな民泊の原状回復費用ですが、適切な対策により大幅に削減できる可能性があります。
1. 入居時・退去時の写真記録を徹底する
なぜ重要か:
入居時の状態を証明できないと、すべての損傷が「民泊運営中に発生した」と判断され、借主負担となるリスクがあります。
実践方法:
- 入居時に全室を動画+写真で記録(日付入り)
- 既存の傷・汚れは特にクローズアップ撮影
- 可能であれば貸主・管理会社立ち会いで確認
- 定期的(年1回程度)にも状態を記録
- 退去時にも同様に記録し、変化を比較
ポイント: スマートフォンの撮影日時データは有力な証拠となります。
2. 契約書の特約条項を事前に確認・交渉する
注意すべき特約:
- 「民泊利用の場合、原状回復費用は全額借主負担」
- 「経年劣化も含めて借主負担」
- 「退去時のクリーニング費用〇〇円を事前徴収」
消費者契約法第10条による保護:
不当に消費者(借主)の利益を害する特約は、消費者契約法第10条により無効となる可能性があります。
参考: 消費者庁「消費者契約法」
交渉のポイント:
- 特約が「通常の使用を超える損耗のみ」と明記されているか確認
- 曖昧な表現(「全額負担」など)がある場合は削除・修正を交渉
- 専門家(弁護士・行政書士)への相談も検討
3. 複数業者から相見積もりを取る
費用削減効果: 業者により20〜40%の価格差が生じることも珍しくありません。
相見積もりの手順:
- 最低3社から見積もりを取得
- 見積もり内容の内訳を詳細に確認
- 不要な工事が含まれていないかチェック
- 「部分補修」で対応可能な箇所を全面張替えにしていないか確認
- 価格だけでなく、説明の丁寧さ・実績も考慮
注意点: 管理会社指定の業者のみしか使えない契約もあるため、契約書を確認してください。
4. 自己負担範囲を正確に把握し、不当請求に反論する
よくある不当請求のパターン:
- 経年劣化による壁紙の変色を全額請求
- 耐用年数を超えた設備の交換費用を全額請求
- 入居時から存在した損傷の修繕費用を請求
- 部分補修で済む箇所を全面工事として請求
対抗手段:
- 国土交通省ガイドラインを根拠に反論
- 入居時の写真・動画を提示
- 耐用年数を考慮した負担割合を計算
- 消費生活センターや法律相談窓口に相談
参考相談窓口:
5. 所有物件の場合は「現況渡し」での買取を検討
所有物件限定の選択肢:
賃貸物件では利用できませんが、区分マンションや一棟物件を所有している場合、民泊専門の買取業者に「現況渡し」で売却することで、原状回復費用を大幅に節約できます。
現況渡しのメリット:
- 原状回復工事が不要(50〜130万円の節約)
- 家具・家電もそのまま引き取ってもらえる
- 最短1〜3週間程度で現金化
- 予約キャンセル対応や廃業手続きのサポートが受けられる場合も
デメリット:
- 通常の仲介売却より買取価格が10〜30%程度低くなる(市場価格の70〜90%程度)
適している状況:
- 赤字が続き、早期撤退したい
- 原状回復費用を支払う資金がない
- 近隣トラブルで一刻も早く撤退したい
民泊原状回復でトラブルになりやすいケースと対処法
実際の相談事例から、トラブルになりやすいケースと対処法をご紹介します。
ケース1: 「壁紙全面張替え100万円」の高額請求
状況:
1LDK物件で3年間民泊運営。退去時に「壁紙全面張替え費用100万円」を請求された。
問題点:
- 壁紙の耐用年数6年を考慮していない
- 部分的な汚れなのに全面張替えを請求
- ㎡単価が相場(800〜1,500円)より高い
対処法:
- 国土交通省ガイドラインに基づき、耐用年数6年・経過3年での負担割合は50%と主張
- 汚れのある箇所の写真を提示し、部分張替えで対応可能と反論
- 相見積もりを取得し、相場との乖離を指摘
- 消費生活センターに相談し、調停を依頼
結果: 最終的に35万円で和解
ケース2: 入居時からあった傷の修繕費用を請求された
状況:
入居時の写真記録を取っていなかったため、既存の床の傷の修繕費用15万円を請求された。
問題点:
- 入居時の状態を証明できない
- 立証責任が借主側に転嫁されている
対処法:
- 入居時の契約書・チェックリストを確認
- 管理会社の入居前点検記録の開示を要求
- 周辺の損耗状況から、既存の傷である可能性を指摘
結果: 証拠不足で請求を認めざるを得なかった(5万円に減額交渉)
教訓: 入居時の写真・動画記録は必須
ケース3: 契約書の特約で「経年劣化も全額負担」と記載
状況:
契約書に「民泊利用の場合、原状回復費用(経年劣化含む)は全額借主負担」との特約があり、築15年のエアコン交換費用20万円を請求された。
問題点:
- 消費者契約法第10条に抵触する可能性がある不当条項
- 耐用年数を大幅に超えた設備の交換費用
対処法:
- 消費者契約法第10条に基づき、特約の無効を主張
- エアコンの耐用年数(6年)と築年数(15年)を根拠に、残存価値1円と計算
- 弁護士に相談し、法的見解を示した書面を送付
結果: 特約が無効と認められ、請求を撤回させた
参考判例: 消費者契約法第10条による特約無効の事例
まとめ|民泊の原状回復費用を理解し、適切に対応する
民泊の原状回復費用は、通常の賃貸住宅よりも高額になる傾向がありますが、法的な知識と適切な対策により、不当な請求を避け、費用を最小限に抑えることが可能です。
重要ポイントのまとめ
法的な基礎知識:
- 民法第621条により原状回復義務が規定(2020年4月施行)
- 経年劣化・通常損耗は貸主負担が原則
- 国土交通省ガイドライン(再改訂版:平成23年8月)が実務の基準
費用相場(推計値):
- 1R・1K: 30〜70万円
- 1LDK: 50〜95万円
- 2LDK: 70〜130万円
- クロス: 量産品800〜1,500円/㎡、高級品2,000〜3,000円/㎡
- フローリング: 4,000〜10,000円/㎡
- エアコン交換: 50,000〜100,000円
- ハウスクリーニング: 30,000〜130,000円(地域により変動)
費用削減の5つの方法:
- 入居時・退去時の写真記録
- 契約書の特約確認・交渉
- 複数業者から相見積もり
- 不当請求への反論
- 所有物件は「現況渡し買取」検討
トラブル回避のために:
- 入居時の状態記録は必須
- 契約書の特約は消費者契約法第10条に照らして確認
- 請求内容は国土交通省ガイドラインと照合
- 不明点は消費生活センターや専門家に相談
民泊撤退時の原状回復は複雑な問題ですが、正しい知識を持つことで、不当な請求を避け、経済的負担を最小限に抑えることができます。
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撤退費用や原状回復でお悩みの際は、まずはお気軽にご相談ください。
免責事項
本記事の情報は2025年1月時点のものです。法律・条例・市場状況は変動する可能性がありますので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。
本記事の費用相場は、当社の取引実績および不動産業界の一般的な相場をもとにした推計値を含みます。民泊原状回復費用に関する公的統計は存在せず、実際の費用は物件の状態、契約内容、地域、運営期間により大きく異なります。正確な見積もりは、必ず複数の専門業者にご相談されることをおすすめします。
