民泊の原状回復義務はどこまで?法的根拠と費用削減の3つの方法

民泊事業から撤退を検討しているけれど、「原状回復義務はどこまで負うべきなのか?」「大家から請求された80万円は妥当なのか?」と悩んでいませんか? 民泊の原状回復義務は民法第621条で規定されており、通常の使用による損耗や経年劣化については貸主負担が原則です。しかし、不特定多数の宿泊者が利用する民泊は、一般賃貸より「通常の使用を超える損耗」と判断されやすく、借主負担が増える傾向があります。本記事では、民泊運営者が知っておくべき原状回復義務の法的定義、借主負担と貸主負担の境界線、賃貸物件と所有物件で異なる義務の範囲、そして原状回復費用を削減する3つの実践方法まで、国土交通省ガイドラインと民法に基づいて徹底解説します。賃貸物件で撤退を検討中の方も、所有物件の処分に悩む方も、この記事を読めば撤退時に損しない方法が見つかります。

民泊の原状回復義務とは?民法621条と国土交通省ガイドラインの定義

**民泊の原状回復義務は民法第621条で規定されており、通常の使用による損耗および経年劣化は義務の対象外です。**ただし、不特定多数の宿泊者が利用する民泊は、一般賃貸より「通常の使用」の範囲が厳しく判断される点に注意が必要です。

原状回復義務の法的定義(民法第621条)

改正民法第621条(e-Gov法令検索)では、以下のように規定されています。

「賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた損耗並びに賃借物の経年変化を除く。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」

この条文の重要なポイントは以下の2点です。

① 通常の使用及び収益による損耗は除外
日常生活で自然に発生する損耗(家具設置跡の床へこみ、日焼けによる壁紙の変色、画鋲・ピンの穴など)は、借主の原状回復義務の対象外です。これらは貸主負担となります。

② 経年変化(経年劣化)も除外
時間の経過により自然に劣化する部分(畳の自然劣化、フローリングの色あせ、設備の耐用年数超過による故障など)も、借主の原状回復義務の対象外です。

原状回復義務の対象となるのは:

  • 借主の故意・過失による損傷(壁に開けた大きな穴、タバコの焦げ跡、不注意によるカビの発生など)
  • 善管注意義務違反による損耗(清掃を怠ったことによる汚れ・カビ、通常の手入れを怠った設備の故障など)

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(PDF)も、この民法の考え方を踏襲し、「賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損」が原状回復の対象と定義しています。

民泊と一般賃貸で異なる原状回復の範囲

民泊が一般賃貸より原状回復費用が高額になりやすい理由:

① 不特定多数の利用による損耗の加速
一般賃貸は1世帯が数年間使用するのに対し、民泊は年間数十〜数百組のゲストが出入りします。そのため、床・壁・建具の劣化が著しく早く、「通常の使用による損耗」の範囲を超えやすくなります。

② 民泊特有の損耗パターン

  • スーツケースによる床・壁・建具の傷
  • 頻繁な出入りによるドアノブ・鍵穴の劣化
  • キーボックス設置跡
  • 多言語表示シールの貼り付け跡
  • 不特定多数の使用による衛生面の劣化(浴室・トイレのカビ・汚れ)

③ 「通常の使用」の解釈が厳しい
民泊運営は事業活動とみなされるため、一般居住者より高い管理責任が求められます。同じ損耗でも、「民泊運営による事業使用」として借主負担と判断されるケースが多くなります。

例えば、フローリングの傷について:

  • 一般賃貸:家具移動による傷 → 通常損耗(貸主負担)
  • 民泊:頻繁なスーツケース移動による傷 → 通常を超える損耗(借主負担)

このように、同じ損傷でも民泊の場合は借主負担と判断される可能性が高いことを理解しておきましょう。

民泊の原状回復全般については、[民泊の原状回復完全ガイド]で詳しく解説しています。

借主負担と貸主負担の境界線|民泊で請求される項目とは

原状回復費用を適正に判断するには、国土交通省ガイドラインに基づく「借主負担」と「貸主負担」の境界線を正確に理解することが重要です。

借主(民泊事業者)が負担すべき項目

国土交通省ガイドラインでは、以下の損耗・毀損を借主負担としています。

① 借主の故意・過失による損傷

  • 壁に開けた大きな穴(エアコン設置穴、棚設置穴など)
  • タバコの焦げ跡、臭い
  • 飲み物をこぼして放置したことによるシミ
  • 不注意によるガラス・設備の破損

② 善管注意義務違反による損耗

  • 清掃を怠ったことによる浴室・トイレのカビ
  • 換気を怠ったことによる結露・カビ
  • 排水溝の掃除を怠ったことによる詰まり
  • 通常の手入れを怠った設備の故障

③ 民泊運営による過度な損耗

  • 不特定多数の頻繁な出入りによる建具の緩み・鍵穴の摩耗
  • スーツケースによる床・壁の傷(一般賃貸を超える程度)
  • 民泊運営のために設置した設備の撤去・補修費用(キーボックス跡、シールの貼り付け跡)

④ ハウスクリーニング費用
通常、賃貸借契約では退去時のハウスクリーニング費用を借主負担とする特約が設けられています。民泊の場合、不特定多数の使用により衛生面の劣化が激しいため、一般賃貸より高額になる傾向があります。

貸主(オーナー)が負担すべき項目

一方、以下の損耗・劣化は貸主負担です。大家から請求された場合、国土交通省ガイドラインを根拠に反論できます。

① 経年劣化(時間の経過による自然な劣化)

  • 日焼けによる壁紙・畳の変色
  • 家電・設備の耐用年数超過による故障(エアコン6年、給湯器10年など)
  • フローリングの色あせ

② 通常の使用による損耗

  • 家具設置による床のへこみ(設置跡)
  • ポスター・カレンダーの画鋲・ピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度)
  • テレビ・冷蔵庫の後ろの壁の黒ずみ(電気やけ)
  • エアコン設置のためのビス穴・跡

③ 耐用年数を考慮した負担割合

国土交通省ガイドライン(PDF)では、各部位の耐用年数を定めており、経過年数に応じて借主の負担割合が軽減されます。

部位耐用年数減価償却の考え方
クロス(壁紙)6年入居3年後→残存価値50%のみ借主負担
畳表5年入居2.5年後→残存価値50%のみ借主負担
フローリング10〜15年部分補修で対応できる場合は全額借主負担とならない
エアコン6年入居3年後→残存価値50%のみ借主負担
カーペット6年入居3年後→残存価値50%のみ借主負担

計算例:
クロス張替え費用が10万円で、入居から3年後に退去した場合:

  • 耐用年数6年の50%が経過
  • 借主負担額 = 10万円 × 50% = 5万円

重要: 大家から「クロス全額10万円を請求」された場合でも、耐用年数を考慮すれば5万円のみが借主負担となります。この根拠を示して交渉しましょう。

民泊特有の「グレーゾーン」:
民泊の場合、「不特定多数の利用による損耗」が「通常の使用」か「通常を超える使用」かの判断が難しいケースがあります。例えば:

  • 2年間の民泊運営で床に多数の傷 → 一般賃貸10年分の損耗に相当する場合、全額借主負担と判断される可能性

このような場合、運営期間、宿泊組数、損耗の程度を総合的に考慮して、双方で合理的な負担割合を交渉する必要があります。

賃貸と所有で異なる原状回復義務|撤退時の選択肢を比較

民泊の原状回復義務は、**賃貸物件と所有物件で大きく異なります。**特に所有物件の場合、法的な原状回復義務はなく、撤退時の選択肢が広がります。

賃貸物件:原状回復は必須(民法621条)

賃貸物件で民泊を運営していた場合、賃貸借契約に基づく原状回復義務は必須です。民法第621条と契約書に従い、退去時には物件を原状に復する必要があります。

賃貸物件での対処法:

  1. 入居時の写真・動画を確認: 既存の傷を証明し、不当請求を防ぐ
  2. 複数業者から相見積もり取得: 最低3社から見積もりを取り、20〜40%の価格差を確認
  3. 国土交通省ガイドラインを根拠に交渉: 耐用年数を考慮した負担割合を計算し、過剰請求には反論
  4. 契約書の特約を確認: 「経年劣化も全額負担」などの不当条項は消費者契約法第10条で無効になる可能性

賃貸物件の場合、原状回復費用は避けられませんが、適切な交渉により30〜50%削減できるケースも多くあります。

所有物件:法的義務なし、選択肢は2つ

区分マンションや一戸建てを所有して民泊を運営していた場合、民法第621条は賃貸借契約に適用される規定のため、所有物件には原状回復義務はありません。

所有物件の場合、以下の2つの選択肢があります。

選択肢① 原状回復してから仲介で売却

メリットデメリット
市場価格の90〜110%で売却可能原状回復費用50〜130万円が必要
購入希望者の幅が広がる売却期間が3〜6ヶ月かかる
手残り額が最大化できる工事期間中の空室リスク

選択肢② 現況渡しで買取業者に売却

メリットデメリット
原状回復費用50〜130万円が不要売却価格は市場価格の70〜80%
最短3営業日で現金化手残り額は仲介より少ない
家具家電もそのまま買取可能

具体的な比較シミュレーション(市場価格2,500万円の区分マンション):

項目原状回復後に仲介売却現況渡しで買取
原状回復費用100万円(自己負担)0円(買取業者負担)
売却期間3〜6ヶ月1〜2ヶ月(最短3営業日)
売却価格2,500万円 × 90% = 2,250万円2,500万円 × 72% = 1,800万円
手残り額2,250万円 – 100万円 = 2,150万円1,800万円
差額▲350万円

判断のポイント:

  • 原状回復費用を支払う資金がない → 現況渡し買取が有力
  • 3ヶ月以内に現金化したい → 現況渡し買取が有利
  • 手残り額を最大化したい+時間に余裕がある → 原状回復後の仲介売却を検討

所有物件の民泊撤退でお困りの場合、現況渡し買取も選択肢の一つです。StayExitでは、原状回復不要で家具家電もそのまま買取可能、最短3営業日での成約実績があります。

民泊買取の相場と業者選びについては、[民泊買取の相場と業者選びのポイント]で詳しく解説しています。

原状回復費用を抑える3つの方法|契約書特約と不当請求への対処

賃貸物件で民泊を運営していた場合でも、適切な対応により原状回復費用を大幅に削減できます。以下の3つの方法を実践しましょう。

入居時の写真記録と契約書の特約確認

方法① 入居時の写真・動画記録を徹底

原状回復トラブルで最も重要な証拠が、入居時の物件状態の記録です。以下のポイントを押さえて記録しましょう。

記録のポイント:

  • 日付入り:スマホの日付表示機能をオンにして撮影
  • 全室撮影:床、壁、天井、設備、建具すべて
  • 既存の傷をクローズアップ:入居時から存在する傷・汚れ・カビを詳細に撮影
  • 貸主立会い確認:可能であれば貸主または管理会社立会いのもと、写真に記録した傷を確認してもらう

入居時の記録がない場合、「入居後に発生した損傷」と推定され、借主負担となるリスクが高まります。

方法② 契約書の特約を確認し、不当条項は無効主張

賃貸借契約書の特約に「経年劣化も全額借主負担」「クリーニング代全額借主負担」などの条項が記載されている場合があります。

しかし、消費者契約法第10条(消費者庁)により、「消費者の権利を制限し、または消費者の義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」は無効となる可能性があります。

無効になりうる特約の例:

  • 「経年劣化による損耗も全額借主負担」→ 民法621条に反するため無効の可能性
  • 「退去時のクロス張替え費用は全額借主負担」→ 耐用年数を考慮しない全額負担は無効の可能性
  • 「民泊利用の場合、原状回復費用は一般賃貸の2倍」→ 合理的根拠がなければ無効の可能性

特約が不当だと感じた場合、消費生活センター(188)や弁護士に相談しましょう。

方法③ 複数業者から相見積もりを取得

大家が指定する業者の見積もりだけでなく、自分でも複数の業者から見積もりを取得しましょう。同じ工事内容でも20〜40%の価格差があることは珍しくありません。

相見積もりのポイント:

  • 最低3社から見積もり取得
  • 内訳を詳細に確認(㎡単価、工事内容、材料グレード)
  • 部分補修で対応可能か検証(全面張替えではなく、傷のある部分のみの補修)
  • 見積書を大家に提示し、価格交渉の材料とする

不当請求への反論方法(国土交通省ガイドライン活用)

大家から原状回復費用を請求された際、以下のような不当請求の例があります。

不当請求の例:

  1. 経年劣化による壁紙変色を全額請求
  2. 耐用年数超過の設備交換を全額請求(例:入居7年後にエアコン交換費用10万円全額請求)
  3. 入居時からの損傷を請求(入居時の写真記録がないと不利)
  4. 過剰なハウスクリーニング費用(1Rで15万円など、相場を大幅に超える請求)

反論方法:

① 国土交通省ガイドラインを根拠に提示
「国土交通省ガイドラインでは、経年劣化は貸主負担と明記されています」と根拠を示す。ガイドラインのPDFを印刷し、該当箇所をマーカーで示して提示すると効果的です。

② 入居時の写真を提示
「入居時から既にこの傷は存在していました」と写真で証明する。

③ 耐用年数を考慮した負担割合を計算
「クロスの耐用年数は6年で、入居から3年経過しているため、残存価値50%のみが借主負担です」と具体的な金額を計算して提示。

④ 相見積もりを提示
「他社の見積もりでは5万円でした。御社の見積もり10万円は相場より高額です」と価格の妥当性を指摘。

⑤ 消費生活センターに相談
交渉が難航する場合、消費生活センター(188)に相談し、専門の相談員に同席してもらうことも可能です。

マンション民泊の原状回復費用相場については、[マンション民泊の原状回復費用相場]で詳しく解説しています。

まとめ|民泊の原状回復義務を理解し、撤退時に損しない

本記事の要点を3つにまとめます。

  1. 民泊の原状回復義務は民法621条で規定、通常損耗・経年劣化は貸主負担: 改正民法第621条により、通常の使用による損耗および経年劣化は原状回復義務の対象外です。ただし、不特定多数が利用する民泊は、一般賃貸より「通常の使用を超える損耗」と判断されやすい点に注意が必要です。国土交通省ガイドラインを根拠に、耐用年数を考慮した負担割合を主張できます。
  2. 賃貸物件は原状回復必須、所有物件は法的義務なし(現況渡し買取も選択肢): 賃貸物件では民法621条に基づく原状回復義務が必須ですが、入居時の写真記録、相見積もり、不当請求への反論により費用を30〜50%削減できます。一方、所有物件には法的な原状回復義務はなく、原状回復してから仲介売却するか、現況渡しで買取してもらうかを経済合理性で判断できます。
  3. 費用削減には入居時の写真記録、契約書特約確認、不当請求への反論が有効: 入居時の物件状態を日付入りで詳細に撮影し、契約書の特約が消費者契約法第10条に違反していないか確認しましょう。大家から不当な請求を受けた場合、国土交通省ガイドライン、耐用年数計算、相見積もりを根拠に反論できます。交渉が難しい場合は消費生活センター(188)に相談しましょう。

読者の状況別アクション:

  • 賃貸物件で民泊を運営していた方: まず入居時の写真記録を確認し、既存の傷を証明できる証拠を整理しましょう。大家から請求された原状回復費用の内訳を精査し、複数業者から相見積もりを取得してください。経年劣化・耐用年数超過の項目は国土交通省ガイドラインを根拠に減額交渉を行いましょう。
  • 所有物件で民泊を運営していた方: 「原状回復後に仲介売却(手残り額が多いが時間・費用がかかる)」と「現況渡しで買取(手残り額は少ないが原状回復費用50〜130万円が不要、最短3営業日で現金化)」の2つの選択肢を比較検討しましょう。時間・資金・手残り額を総合的に判断してください。

民泊撤退の手続き全体については、[民泊撤退の完全ガイド]で詳しく解説しています。

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免責事項:
本記事の情報は2026年1月時点のものです。法律・条例・市場状況は変動する可能性がありますので、最新情報は公式サイト等でご確認ください。原状回復義務の判断は個別の契約内容・物件状態により異なるため、専門家(弁護士、不動産会社、消費生活センター)への相談をお勧めします。

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