民泊の上乗せ条例は収益を最大67%減少させる―地域別規制の実態と3つの対応策

2018年6月に住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、日本全国で民泊が合法化されました。しかし、多くの自治体が独自の「上乗せ条例」を制定し、営業日数や区域を大幅に制限しています。年間180日営業できるはずが、実際には60日以下しか営業できない地域も存在します。この規制により、収益計画が崩壊し、撤退を余儀なくされる事業者が続出しているのが現状です。

本記事では、上乗せ条例の実態と地域別の影響、そして継続・転換・撤退の3つの対応策を、2026年最新情報と実例をもとに解説します。

民泊の「上乗せ条例」とは?法的根拠と規制内容

上乗せ条例とは、住宅宿泊事業法第18条に基づき、各自治体が独自に制定できる条例のことです。同法では「生活環境の悪化を防止するため必要があるときは、合理的に必要と認められる限度において、区域を定めて、住宅宿泊事業を実施する期間を制限することができる」と規定されています。

この法的根拠により、自治体は国の基準(年間180日以内)よりもさらに厳しい規制を設けることが可能になりました。観光庁の民泊制度ポータルサイトによると、東京23区の多くや大阪市、京都市など、主要都市のほとんどが何らかの上乗せ条例を制定しています。

上乗せ条例で規制される主な3つのポイント

上乗せ条例による規制は、主に以下の3つの側面から実施されています。

規制項目民泊新法の基準上乗せ条例による制限例
営業日数年間180日以内年間60日程度(世田谷区など、住居専用地域で月曜正午〜金曜正午まで営業禁止)
営業区域制限なし住居専用地域では全面禁止(新宿区など)
運営方法管理者配置家主居住または管理者常駐義務(千代田区など)

営業日数の制限では、国の基準である年間180日をさらに短縮するケースが多く見られます。特に住居専用地域では、平日の営業を禁止することで実質的に年間60日程度しか営業できない自治体もあります。

営業区域の制限では、住居環境を保護する観点から、住居専用地域での民泊営業を全面的に禁止する自治体が増加しています。都市部の物件の多くが住居専用地域に指定されているため、この規制により営業不可能となる物件が続出しました。

運営方法の制限では、家主不在型の民泊に対して、家主居住を義務付けたり、管理者の常駐を求めたりする条例が制定されています。これにより、投資用物件での民泊運営が実質的に不可能になるケースもあります。

なぜ自治体は規制を強化するのか?

自治体が上乗せ条例で規制を強化する背景には、住民からの強い要望があります。

民泊新法の施行前後から、住民からの苦情が急増しました。主な苦情内容は、深夜の騒音、ゴミ出しルールの無視、共用部分での迷惑行為、不審者の出入りによる治安への懸念などです。特にマンションでは、住民登録のない外国人の頻繁な出入りに対する不安の声が多く寄せられました。

また、多くのマンションでは管理規約で「専ら住宅として使用する」と定めており、民泊営業がこの規約に抵触するという問題も発生しました。管理組合と民泊運営者の間でトラブルが頻発し、自治体に対して規制強化を求める声が高まったのです。

こうした住民の声に応える形で、多くの自治体が上乗せ条例を制定し、住環境の保護を優先する姿勢を明確にしました。

【地域別一覧】主要都市の上乗せ条例による影響

上乗せ条例の内容は自治体によって大きく異なります。ここでは、東京23区、大阪市、京都市を中心に、具体的な規制内容と民泊運営への影響を解説します。

東京23区の上乗せ条例による影響

東京23区では、多くの区が独自の上乗せ条例を制定しており、その内容には大きな地域差があります。

世田谷区は特に規制が厳しいことで知られています。住居専用地域では、月曜日の正午から金曜日の正午までの営業が禁止されており、実質的に週末(金曜正午〜月曜正午)のみの営業となります。これにより、年間営業可能日数は約60日程度に短縮されます。世田谷区は住宅地が多く、住環境の保護を最優先する姿勢を明確にしています。

新宿区では、住居専用地域での民泊営業を全面的に禁止しています。新宿区は商業地域も多いため、商業地域・近隣商業地域では年間180日の営業が可能ですが、住居専用地域の物件では一切営業できません。新宿区内で民泊を運営する場合、用途地域を事前に確認することが不可欠です。

千代田区では、家主居住型民泊または管理者常駐型民泊のみを認めています。家主不在型で管理者も常駐しない場合、千代田区では営業できません。これは、不在型民泊によるトラブルを防止するための措置です。

一方、北区のように上乗せ条例を制定していない区も存在します。北区では民泊新法の基準がそのまま適用されるため、年間180日の営業が可能です。ただし、今後条例が制定される可能性もあるため、継続的な情報確認が必要です。

大阪市・京都市の上乗せ条例による影響

大阪市では、住居専用地域において1月〜3月中旬(観光閑散期)のみ民泊営業を認めています。この期間以外は営業できないため、実質的な営業可能日数は年間約75日程度に制限されます。大阪市は関西圏の観光拠点であり、インバウンド需要も高いエリアですが、住環境保護の観点から厳しい規制が敷かれています。

京都市も大阪市と同様に、住居専用地域では1月〜3月中旬のみの営業を認めています。京都市は世界的な観光都市であり、民泊需要は非常に高いものの、住民からの苦情や景観保護の観点から、住居専用地域での規制を強化しました。観光地に近い商業地域などでは年間180日の営業が可能ですが、住宅地での営業は大幅に制限されています。

これらの主要都市では、住居専用地域での民泊営業が著しく制限されており、当初の収益計画を大きく下回る結果となった事業者が多数存在します。

上乗せ条例による届出件数への影響(データで見る実態)

上乗せ条例の制定は、民泊の届出件数にも大きな影響を与えています。

観光庁の統計によると、民泊新法施行当初(2018年6月)の届出件数は全国で約4,000件程度でしたが、その後の伸びは限定的でした。特に上乗せ条例が厳しい東京23区では、当初見込まれていた届出数を大きく下回る結果となりました。

東京新聞の報道では、「厳しい規制の自治体ほど届出が低調」という傾向が明確に示されています。世田谷区や新宿区などの規制が厳しい区では、届出件数が数十件程度にとどまっているケースもあります。

また、一度届出を行った事業者の中にも、条例施行後に営業を断念し、届出を取り下げるケースが相次ぎました。実質的な営業日数の短縮により収支が合わなくなったことが主な理由です。

上乗せ条例が民泊運営に与える実務的影響

上乗せ条例による規制は、単なる法的な制約にとどまらず、民泊運営者の収益に直接的かつ深刻な影響を与えています。

営業日数制限による収益減少シミュレーション

営業日数の制限が収益に与える影響を具体的な数値で見てみましょう。

シミュレーション例:世田谷区の物件(住居専用地域)

前提条件:

  • 1泊あたりの宿泊料金:10,000円
  • 稼働率:70%
  • 年間固定費(管理費、光熱費、清掃費など):120万円
項目規制前(180日営業)規制後(60日営業)減少率
最大営業日数180日60日-67%
実際の稼働日数126日(70%)42日(70%)-67%
年間売上126万円42万円-67%
年間固定費120万円120万円
年間利益+6万円-78万円

このシミュレーションから分かるように、営業日数が180日から60日に短縮されると、売上が67%減少する一方で固定費は変わらないため、黒字運営から大幅な赤字に転落します。

実際には、稼働率が70%を維持できないケースも多く、週末のみの営業では競合が集中するため、宿泊料金の値下げ競争に巻き込まれる可能性もあります。その場合、収益悪化はさらに深刻になります。

届出取り下げ・廃業が相次ぐ実態

上乗せ条例の施行により、多くの民泊事業者が届出の取り下げや廃業を余儀なくされました。

観光庁の統計では、条例施行後に東京23区で届出の約20〜30%が取り下げられたという報告もあります。取り下げの主な理由は、営業日数制限による収支悪化、住民トラブルへの懸念、規制対応の煩雑さなどです。

実例:新宿区で簡易宿所への転換を断念したケース

新宿区の住居専用地域で民泊を計画していたオーナーが、上乗せ条例により民泊営業が不可能になったため、旅館業法の簡易宿所への転換を検討しました。しかし、簡易宿所の許可取得には、フロント設置、客室面積の確保、消防設備の強化など、多額の設備投資が必要であることが判明し、結局断念。物件を通常の賃貸住宅として運用することになりました。

このように、規制強化により民泊運営が困難になった場合、代替手段への転換も容易ではなく、多くの事業者が撤退を選択せざるを得ない状況になっています。

違反時の罰則とリスク

上乗せ条例に違反して営業を続けた場合、重い罰則が科される可能性があります。

住宅宿泊事業法第72条、第77条では、条例に違反して営業した場合、業務停止命令や50万円以下の罰金が科される可能性が規定されています。

さらに、届出を行わずに民泊営業を行った場合、旅館業法違反となり、6か月以下の懲役または3万円以下の罰金(旅館業法第10条)という、より重い刑事罰の対象となります。

近年、自治体による民泊の監視・取締りは強化されており、住民からの通報により違法営業が発覚するケースも増加しています。違反のリスクを冒して営業を続けることは、法的責任だけでなく、社会的信用の失墜にもつながるため、避けるべきです。

民泊サブリースのトラブル事例については、別途専門記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。

上乗せ条例への3つの対応策

上乗せ条例による規制強化に直面した場合、民泊事業者には大きく分けて3つの対応策があります。それぞれのメリット・デメリット、判断基準を整理します。

【対応策①】規制の緩い自治体への物件移転

上乗せ条例のない、または規制が比較的緩い自治体で民泊運営を行うという選択肢があります。

東京23区では北区のように上乗せ条例を制定していない区も存在し、こうした地域では民泊新法の基準である年間180日の営業が可能です。また、地方都市の中には、観光振興の観点から民泊に対して比較的寛容な姿勢を取っている自治体もあります。

メリット:

  • 年間180日のフル活用が可能で、収益を最大化できる
  • 住民トラブルのリスクが比較的低い地域を選択できる

デメリット:

  • 新規物件の取得には初期投資が必要(購入費用、リフォーム費用など)
  • 観光需要が高い地域とは限らず、稼働率が低下する可能性
  • 既存物件の処分(売却または賃貸転換)にコストと時間がかかる

判断基準: 初期投資を回収できるだけの長期的な需要が見込めるか、慎重に検討する必要があります。

【対応策②】旅館業許可(簡易宿所)への転換

旅館業法に基づく簡易宿所営業の許可を取得すれば、営業日数の制限を受けずに年間365日の営業が可能になります。

民泊新法の届出よりもハードルは高いものの、本格的に宿泊業を営む意思がある場合、簡易宿所への転換は有力な選択肢です。

メリット:

  • 営業日数の制限がなく、年間365日営業可能
  • 「正式な宿泊施設」としての信頼性が高まり、集客に有利
  • 自治体の上乗せ条例の影響を受けない

デメリット:

  • 許可取得のハードルが高い(フロント設置、客室面積の確保、消防設備など)
  • 設備投資に数百万円単位のコストがかかる場合がある
  • 保健所の検査や定期的な行政指導への対応が必要

判断基準: 初期投資を回収できるだけの長期的な収益が見込めるか、また継続的な管理体制を構築できるかが重要です。簡易宿所の許可取得には、行政書士などの専門家への相談も有効です。

【対応策③】早期撤退と物件の出口戦略

規制が厳しく収支が合わない場合、早期撤退も現実的な選択肢です。損失を最小限に抑え、次の投資機会に資金を振り向けることで、長期的な資産形成を維持できます。

撤退時の選択肢には以下のようなものがあります。

1. 通常賃貸への転換
民泊としての運用を停止し、通常の賃貸住宅として貸し出す方法です。安定した賃料収入が見込めますが、民泊時代よりも収益性は低下する可能性があります。

2. 物件売却
物件を売却し、資金を回収する方法です。市場価格での売却が可能であれば、損失を最小限に抑えられます。

3. 民泊専門の買取・撤退支援サービスの活用
民泊運営に特化した買取・撤退支援サービスを利用することで、スピーディーな問題解決が可能です。

民泊の上乗せ条例により収支が悪化し、運営継続が難しい場合、早期撤退も現実的な選択肢です。StayExitでは、民泊・旅館業専門の撤退支援サービスを提供しています。

StayExitの特徴:

  • 現況渡しOK(原状回復不要)
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  • 1Rから5棟一括まで対応
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複雑な契約関係やトラブルもまとめて対応できるため、時間とコストを大幅に削減できます。

民泊マスターリース契約の解約方法については、別途専門記事で詳しく解説していますので、併せて参考にしてください。

2025年以降の民泊市場と上乗せ条例の今後

上乗せ条例による規制強化が続く一方で、今後の民泊市場にはどのような変化が予想されるのでしょうか。

インバウンド回復と規制緩和の可能性

2025年以降、日本政府は観光立国の実現に向けて、訪日外国人旅行者の誘致を強化しています。インバウンド需要が回復・拡大すれば、宿泊施設不足が再び問題となる可能性があります。

そうした状況下では、一部の自治体が上乗せ条例を緩和し、民泊の営業日数を延長したり、営業可能区域を拡大したりする可能性も考えられます。特に観光資源が豊富な地方自治体では、観光振興と住環境保護のバランスを再検討する動きが出てくるかもしれません。

住民トラブル増加による規制強化リスク

一方で、民泊による住民トラブルが増加すれば、さらなる規制強化が行われるリスクもあります。特にマンションでの民泊営業は、管理組合との対立が深刻化するケースが多く、自治体に対する規制強化の要望が高まる可能性があります。

また、違法民泊(無届営業)の摘発が強化されれば、民泊全体に対する社会的な信頼が損なわれ、合法的に運営している事業者にも悪影響が及ぶ可能性があります。

今後も自治体の動向を注視する必要性

上乗せ条例は自治体ごとに随時見直しが行われる可能性があります。民泊事業者は、自分の運営地域の自治体の動向を継続的に監視し、条例改正の情報をいち早く入手することが重要です。

各自治体の公式ホームページや観光庁の民泊制度ポータルサイトを定期的に確認し、最新情報を把握するよう心がけましょう。

まとめ:上乗せ条例を正しく理解し、最適な選択を

民泊の上乗せ条例について、重要なポイントを改めて整理します。

記事の要点:

  1. 上乗せ条例により民泊は地域差が大きい:住宅宿泊事業法第18条により、各自治体は独自の規制を設けることができます。東京23区の世田谷区や新宿区、大阪市、京都市などでは、営業日数が年間60日程度に制限されるなど、厳しい規制が敷かれています。
  2. 営業日数制限により収益が大幅に悪化:年間180日の営業を前提とした収益計画が、上乗せ条例により60日に短縮されると、売上が67%減少する一方で固定費は変わらないため、黒字から大幅な赤字に転落するケースが多発しています。
  3. 継続・転換・撤退の3つの選択肢:規制の緩い自治体への物件移転、旅館業許可(簡易宿所)への転換、早期撤退と物件の出口戦略の3つの対応策があります。それぞれにメリット・デメリットがあり、自分の状況に応じた最適な選択が求められます。
  4. 今後も自治体の動向を注視する必要:インバウンド回復による規制緩和の可能性がある一方、住民トラブル増加によるさらなる規制強化のリスクもあります。自治体の最新情報を継続的に確認することが不可欠です。

読者の状況別アクション:

これから民泊を始めようとしている方:まず自分の物件がある自治体の上乗せ条例を詳細に確認しましょう。営業可能日数、営業可能区域、運営方法の制限を正確に把握した上で、現実的な収益シミュレーションを行ってください。規制が厳しい地域では、民泊以外の活用方法も検討することをお勧めします。

既に民泊を運営していて規制に直面している方:継続・転換・撤退の3つの選択肢を冷静に比較検討しましょう。収支が改善する見込みがない場合、損失を拡大させる前に早期撤退も視野に入れることが賢明です。弁護士や行政書士などの専門家に相談することも有効です。

撤退を検討している方:物件を通常賃貸に転換するか、売却するか、専門業者の買取サービスを利用するか、複数の選択肢を比較しましょう。時間とコストを最小限に抑えるためには、民泊撤退に特化した支援サービスの活用も検討してください。

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【免責事項】
本記事は2026年1月時点の情報に基づいて作成されています。自治体の条例は随時改正される可能性があるため、最新の情報は各自治体の公式ホームページまたは担当窓口でご確認ください。また、本記事の内容は一般的な情報提供を目的としており、個別の法的助言を構成するものではありません。具体的な対応については、弁護士や行政書士などの専門家にご相談ください。

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