帝国データバンクの調査によると、2024年1年間(1~12月)のホテル・旅館経営業者の倒産件数は73件、負債総額は306億1,500万円に達しました。前年の67件から6件増加(9.0%増)し、4年ぶりに増加に転じています(観光経済新聞)。
コロナ禍からの回復期にあるものの、人件費・光熱費の高騰、ゼロゼロ融資の返済開始、後継者不足など、旅館業界を取り巻く経営環境は依然として厳しい状況です。本記事では、旅館業の倒産動向を最新データで分析し、倒産予兆を自己診断できるチェックリスト、そして倒産を避けるための実務的な選択肢を解説します。
この記事でわかること:
- 2024年の旅館業倒産件数と過去5年間の推移
- 倒産の主な5つの原因(コロナ禍、人件費高騰、後継者不足等)
- 経営者向け倒産予兆チェックリスト10項目
- 倒産を避けるための5つの実務的選択肢
旅館業の倒産件数と最新動向【2024年データ】
2024年の旅館業倒産件数と推移
帝国データバンクの最新調査によると、**2024年のホテル・旅館経営業者の倒産件数は73件(負債総額306億1,500万円)**となり、前年比で9.0%増加しました。過去5年間の推移は以下の通りです。
| 年度 | 倒産件数 | 前年比 | 負債総額 |
|---|---|---|---|
| 2020年 | 118件 | +28.3% | 547億円 |
| 2021年 | 86件 | -27.1% | 254億円 |
| 2022年 | 55件 | -36.0% | 144億円 |
| 2023年 | 67件 | +21.8% | 258億円 |
| 2024年 | 73件 | +9.0% | 306億円 |
コロナ禍のピーク(2020年)以降、倒産件数は一旦減少したものの、2023年から再び増加傾向に転じています。これは、政府のゼロゼロ融資や雇用調整助成金などの支援策が終了し、返済負担が本格化したことが大きな要因です。
倒産増加の背景と今後の見通し
倒産増加の背景には、以下の要因が複合的に作用しています。
コロナ禍からの回復遅れ: 観光庁の宿泊旅行統計調査によると、2024年の延べ宿泊者数は6億5,028万人泊で、2019年比で9.1%増と回復傾向にあります(観光庁)。しかし、地方の旅館では稼働率の回復が都市部より遅れており、固定費を賄えない施設が増加しています。
人件費・光熱費の高騰: 東京商工リサーチの調査では、2024年の「人件費高騰」を要因とする倒産は104件(前年比81.7%増)に達し、過去最多を記録しました(東京商工リサーチ)。宿泊業も例外ではなく、最低賃金の引き上げや社会保険料負担の増加により、利益率が大幅に悪化しています。
今後の見通し: 2025年以降も人手不足と人件費高騰は継続すると予測され、財務体質が弱い小規模旅館を中心に倒産リスクは高止まりする見込みです。
宿泊業からの撤退を検討する際の手続きについては、民泊撤退の手続きと費用も併せてご確認ください。
旅館業が倒産する5つの主な原因
コロナ禍からの回復遅れと需要減少
コロナ禍で大打撃を受けた旅館業界は、2023年以降インバウンド需要の回復により一部で活況を取り戻しましたが、地方の小規模旅館では宿泊者数の回復が遅れています。観光庁のデータによると、2024年の外国人延べ宿泊者数は1億6,447万人泊(前年比39.7%増)と大幅に増加した一方、**日本人延べ宿泊者数は4億9,460万人泊(前年比1.0%減)**と微減しました(観光庁宿泊旅行統計調査)。
国内旅行需要の低迷により、地方旅館の稼働率は依然として低水準にとどまり、固定費を賄えない状況が続いています。
人件費・光熱費の高騰による利益率悪化
2024年の人手不足倒産は289件(前年比81.7%増)に達し、過去最多を記録しました。特に「人件費高騰」を要因とする倒産は104件と、宿泊業を含む労働集約型産業に深刻な打撃を与えています(東京商工リサーチ)。
最低賃金の引き上げ(2024年度の全国加重平均は1,054円、前年比+51円)や社会保険料負担の増加により、人件費は2020年比で平均10~15%上昇しています。加えて、電気・ガス料金の高騰も収益を圧迫し、利益率は大幅に悪化しています。
後継者不足と設備老朽化
中小企業庁の調査によると、**後継者が決まっていない「未定企業」は22.0%、廃業予定が52.6%**にのぼり、多くの旅館で事業承継が進んでいません(中小企業庁)。
特に地方の家族経営旅館では、後継者不在に加えて建物・設備の老朽化が進行し、大規模修繕や改修の資金調達が困難な状況です。改修費用が数千万円~数億円に達するケースも多く、投資回収の見込みが立たないまま廃業を選択する事業者が増加しています。
ゼロゼロ融資の返済負担
コロナ禍で多くの旅館が利用した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が2023年から本格化しました。融資残高を返済できず、資金繰りが行き詰まるケースが目立ちます。
OTA依存と価格競争の激化
楽天トラベル、じゃらん、Booking.comなどのOTA(オンライン旅行代理店)への依存度が高まる一方、手数料負担(売上の10~20%)が利益を圧迫しています。加えて、価格競争の激化により客単価が低下し、収益構造が悪化しています。
あなたの旅館はどの要因に該当しますか? 次のセクションでは、倒産予兆を自己診断できるチェックリストを提供します。
倒産予兆を見逃すな|経営者向け10項目チェックリスト
倒産に至る企業には、事前に共通する「予兆サイン」が存在します。帝国データバンクと東京商工リサーチの倒産企業分析から抽出した、旅館業経営者が自己診断できる10項目のチェックリストを紹介します。
資金繰り・キャッシュフローの警告サイン
- □ 3ヶ月連続で営業キャッシュフローがマイナス
東京商工リサーチによると、倒産した旅館の約80%が倒産前3ヶ月以内に営業キャッシュフローがマイナスに転じています。 - □ 借入金の返済が遅延または条件変更を申請中
金融機関への返済が滞り始めると、追加融資が困難になり、資金繰りが急速に悪化します。 - □ 手元現金が月商の1ヶ月分未満
宿泊業の場合、固定費(人件費、光熱費、保険料等)が大きいため、最低でも月商1~2ヶ月分の現金が必要です。
売上・稼働率の警告サイン
- □ 年間平均稼働率が40%以下
稼働率40%未満では、変動費と固定費を賄えず、慢性的な赤字状態に陥ります。 - □ 売上高が3年連続で前年比10%以上減少
継続的な売上減少は、需要喪失または競争力低下のシグナルです。 - □ 客単価が地域平均を20%以上下回る
過度な値下げは利益率を悪化させ、持続的な経営を困難にします。
経営体制・人員の警告サイン
- □ 従業員の離職率が年間30%以上
人手不足により既存従業員の負担が増大し、サービス品質が低下する悪循環に陥ります。 - □ 後継者が決まっておらず、経営者が60歳以上
事業承継の準備が整っていない場合、経営者の高齢化により突発的な廃業リスクが高まります。 - □ 設備改修費用が年間売上の30%以上必要
大規模修繕が必要な状態で資金調達できない場合、営業継続が困難になります。 - □ 主要取引先(OTA等)からの売掛金回収が遅延
取引先の経営悪化により、入金遅延が発生すると資金繰りに直結します。
判定基準
- 5個以上該当: 早急な対策が必要(専門家への相談を推奨)
- 3~4個該当: 倒産リスクあり(事業売却・不動産売却など倒産以外の選択肢を検討)
- 2個以下: 定期的に再診断し、経営改善施策を実施
次のセクションでは、倒産を避けるための具体的な選択肢を解説します。
倒産を避けるための5つの実務的選択肢
倒産に至る前に取りうる選択肢は複数あります。ここでは、旅館業経営者が検討すべき5つの実務的な方法をメリット・デメリット・適した状況とともに解説します。
事業売却・M&Aで経営権を譲渡
概要: 旅館の経営権を第三者に譲渡し、運営ノウハウや顧客基盤を含めて売却する方法。中小企業庁によると、宿泊業のM&A件数は増加傾向にあり、事業承継問題の解決手段として注目されています(中小企業庁)。
メリット:
- 事業価値(のれん、顧客基盤、ブランド)を含めて評価され、不動産売却よりも高値で売却できる可能性
- 従業員の雇用継続が期待できる
デメリット:
- 買い手探しに時間がかかる(平均6ヶ月~1年)
- デューデリジェンス(企業調査)により簿外債務等が発覚すると交渉が難航
適した状況: 稼働率が比較的高く(50%以上)、立地・ブランド力に強みがある旅館
不動産売却による事業縮小・撤退
概要: 旅館業を廃業し、不動産として物件を売却する方法。専門買取業者を活用すれば、最短3営業日で現金化、現況渡しOKで原状回復費用を削減できます。
メリット:
- スピーディーな現金化(最短3営業日~1ヶ月)
- 原状回復・リフォーム不要で売却可能
- 仲介手数料が不要(買取業者の場合)
デメリット:
- 仲介売却と比較して売却価格が10~20%低くなる可能性
適した状況: 早期に資金を確保したい、設備老朽化で改修費用が高額、後継者不在で廃業を決断した経営者
業態転換・賃貸転換
概要: 旅館業を廃業し、物件を長期滞在型ホテル、シェアハウス、賃貸マンション等に転換する方法。
メリット:
- 資産を保有したまま、安定的な賃料収入を確保
- 旅館業より管理負担が軽い
デメリット:
- 業態転換に伴う改修費用(数百万円~数千万円)が必要
- 賃貸需要が見込めない地域では空室リスクが高い
適した状況: 立地が都市部または大学・企業の近くで賃貸需要が見込める物件
金融支援制度の活用
概要: 日本政策金融公庫の「セーフティネット貸付」や自治体の制度融資を活用し、資金繰りを改善する方法。
メリット:
- 返済条件の緩和や追加融資により、一時的な資金繰り改善が可能
デメリット:
- 根本的な収益改善策がない場合、借入が増えるだけで問題解決にならない
適した状況: 一時的な資金不足だが、将来的に収益改善の見込みがある旅館
計画的廃業
概要: 自主的に廃業を決断し、債務を整理しながら事業を終了する方法。破産手続きを避け、資産を処分して債務を返済します。
メリット:
- 破産と異なり、経営者の信用情報への影響を最小化できる
- 従業員への退職金支払いや取引先への支払いを優先できる
デメリット:
- 債務が資産を上回る場合、自己資金での補填が必要
適した状況: 債務超過ではないが、事業継続の見込みがなく、計画的に事業を終了したい経営者
5つの選択肢の比較表
| 選択肢 | 期間 | 費用 | 適した状況 |
|---|---|---|---|
| 事業売却・M&A | 6ヶ月~1年 | 仲介手数料(売却価格の2~5%) | 稼働率高、ブランド力あり |
| 不動産売却 | 3営業日~1ヶ月 | ほぼ0円 | 早期現金化、後継者不在 |
| 業態転換 | 3~6ヶ月 | 改修費用数百万円~ | 賃貸需要が見込める立地 |
| 金融支援 | 1~3ヶ月 | 利息のみ | 一時的な資金不足 |
| 計画的廃業 | 3~6ヶ月 | 数十万円(専門家費用) | 債務超過ではない |
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宿泊施設の売却方法については民泊物件の売却方法と相場で詳しく解説しています。
倒産手続きの流れと費用(破産・民事再生)
万が一、倒産を避けられない状況になった場合、法的手続きには主に「破産」と「民事再生」の2つがあります。ここでは、それぞれの流れと費用を簡潔に解説します。
破産手続きの流れと費用
破産手続きは、裁判所を通じて債務整理を行い、事業を清算する手続きです。
流れ(5ステップ):
- 弁護士への相談・破産申立準備
- 裁判所へ破産申立
- 裁判所の破産手続開始決定
- 破産管財人による資産調査・換価
- 債権者への配当・手続き終了
費用の目安:
- 予納金: 負債総額に応じて50万円~200万円(東京地方裁判所)
- 弁護士費用: 50万円~100万円
- その他: 官報公告費等で数万円
注意点: 破産手続きは全ての資産を処分し、債権者に配当するため、経営者個人の保証債務も整理対象になります。
民事再生との違いと選択基準
民事再生は、事業を継続しながら債務を減額し、再生計画を実行する手続きです。
破産との主な違い:
- 事業継続: 民事再生は事業を継続、破産は事業清算
- 債務減額: 民事再生は債務の一部免除が可能、破産は全額免除
- 費用: 民事再生の方が高額(予納金200万円~、弁護士費用100万円~)
選択基準:
- 破産を選ぶべき: 事業継続の見込みがない、債務超過が深刻
- 民事再生を選ぶべき: 事業継続の可能性がある、スポンサー企業の支援が見込める
重要: 倒産は最終手段です。その前に、事業売却・不動産売却など倒産以外の選択肢を検討することを強くお勧めします。
宿泊業の廃業手続きについては民泊廃業届の提出方法で詳しく解説しています。
まとめ:旅館業の倒産リスクと今取るべきアクション
旅館業の倒産リスクは2024年も高水準で推移しており、経営者は早期の意思決定が求められています。本記事の要点を以下にまとめます。
記事の要点:
- 2024年の旅館業倒産件数は73件(前年比9.0%増)で、4年ぶりに増加に転じた
- 倒産の主な要因: コロナ禍からの回復遅れ、人件費・光熱費高騰(前年比81.7%増)、後継者不足、ゼロゼロ融資の返済負担、OTA依存
- 倒産予兆チェックリスト: 資金繰り、売上、経営体制の3カテゴリ・10項目で自己診断
- 倒産を避ける5つの選択肢: 事業売却・M&A、不動産売却、業態転換、金融支援、計画的廃業
状況別の推奨アクション:
- チェックリストで5個以上該当: 早急に専門家(税理士、弁護士、M&A仲介業者)に相談し、事業売却または不動産売却を検討
- 3~4個該当: 倒産リスクありと認識し、倒産以外の選択肢(事業売却、不動産売却)を早期に検討開始
- 2個以下: 経営改善施策(稼働率向上、コスト削減、業態転換)を実施し、定期的に再診断(3ヶ月ごと)
2025年以降の見通し: 人手不足と人件費高騰は継続する見込みであり、財務体質が弱い小規模旅館を中心に倒産リスクは高止まりすると予測されます。早期の意思決定により、損失を最小化することが重要です。
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免責事項:
本記事の情報は2025年12月時点のものです。倒産件数・統計データは各調査機関の発表時期により変動します。倒産手続き・法律に関する情報は一般的な内容であり、個別の状況によって異なる場合があります。実際の手続きや法的判断が必要な場合は、弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
